百田尚樹の小説『夢を売る男』をご紹介します。自費出版という独自のビジネスを推し進める出版社のカリスマ経営者のお話です。
百田尚樹は文庫で累計発行部数546万部のメガヒット作品「永遠のゼロ」の作者です。
映像のような描写と目の前で登場人物が動き出しているような臨場感。
百田尚樹の小説はすべて読みやすいのですが、この本はパンチの効いた豪快な作品で百田尚樹らしさが全開です。
おすすめポイントは2つです。
ブラックジョークとはこういうものか!
一つ目は中毒性のあるブラックジョーク。
「将来俺はスティーブジョブズみたいに、世の中にでっかいインパクトを残す仕事をするんだ」みたいなことを豪語しつつ、現実では何もしていない大学生。
「私の人生は、自らの正義を貫き続けたために、反抗して出世は遅れたが、きっとこの私の生きざまを記した本はメガヒットするはずだ」と信じて疑わない引退したご老人。
登場してくる人がいちいちとってもクール。
誰をモデルにしているのかはわからないけど、確かにこんな人いるよね、って思わされる登場人物ばかりです。
そして読んでるあなたもきっと、これらの登場人物のどれかから、きっと自分にも通じる自意識の肥大が見つけられるはずです。
いや、自分はそんなことない、って思ってるかもしれませんが、案外自分のプライドって高いんですよね。それを僕も思い知らされました。
読み進めながら、頭を抱えて転げたくなるような描写がちらほら、というかゴロゴロあります。
読者の心を切り裂くような描写とストーリーが最高です。
登場人物をあしらって餌にするカリスマ経営者ではあるため、あくどい雰囲気が出ています。
それでもエンディングは「軸をもって働く人間のカッコよさ」みたいなものをかっこよくばちっと決めているので文句がつけようがありません。
ぶっちゃけ言うと「この業界(小説)はオワコン」
二つ目は「自分の業界のリアルをありえないくらいぶっちゃける」点です
舞台が出版社、というところに注目です。そうですね、百田尚樹自らが身を置く世界なんです。
小説は、どこか非日常的な世界設定が不可欠なものではありますが、そこで自分が一番精通している業界を舞台にしてしまう。
百田尚樹はもともと放送業界の畑の人間で、そこから文筆の世界に足を踏み入れたという背景があります。
だからこそ、外の世界から見た、出版の現在の業態のゆがみようが面白く描けるんでしょう。それは言ってはいかんでしょ、っていうラインのギリギリへ切り込んでいます。
「撃っていいのは撃たれる覚悟のあるやつだけだ」という言葉がありますが、それでいうと百田尚樹は撃たれるの覚悟で大乱射しています。もはやテロリズム。
切れ味バツグンの業界暴露を楽しむことができます。
まとめ
これですごいと思うのは、この小説でも言っている通り、「そもそも文芸業界はオワコンであり、売れない作家はクソであるから消えるべき」という主張を現実で実行している点です。
本人は「重版がかからなくなったら即引退する」と公言しており、実際に2019年に引退されてるんですね。そういう作品外との一貫性、執念に近い情熱をこの小説で味わってみてください
超おすすめです。