小説『陽だまりの彼女』の小説と映画の違いについて

「完全無欠の恋愛小説」「女子が男子に読んでほしい恋愛小説ナンバーワン」これらのキャッチコピーが話題になった越谷オサムの小説『陽だまりの彼女』。

 

2011年に発表され、ふだん恋愛小説を読まない中年層にも広く届きました。

 

2013年には累計発行部数100万部を突破。松潤主演で映画化もされました。

 

今回は『陽だまりの彼女』の小説と映画版両方を見て思った相違点、共通点などをまとめていきます。

 

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1、映画ではカットされた重要なシーン

 

映画は時間制限が厳しいのでシーンがいくつかカットされるのは仕方ないのですが、いくつかここも映像化してほしかったなあ、という部分がありました。

 

一番惜しかったのは、次第に体調を崩し、元気がなくなっていく真緒を見て心配に思った浩介が、真緒を元気づけようとしてサプライズを用意するシーンです。

 

指輪を花壇に隠して、真緒に見に行かせる。飛ぶように喜んで浩介に抱き着くシーンが欲しかった。

 

あそこは人間としての相互のリスペクトが輝く名シーンだと思っていたので入れてほしかったです。

 

あとは真緒がタンスに現金をため込んでいるのを浩介が発見して問い詰めるシーン。浩介のことを思って消失後の資金を用意しておいたという真緒の意図がわかって泣けます。

 

あとは小学生時代のいじめっ子潮田の息子を撃退するシーン。暗い小学生時代を乗り越える、過去から前を向く象徴的なシーンだったので入っていなかったのが悲しかった。

 

2、ヒロイン、主人公ともにラブコメチック

 

ヒロインが上野樹里さんなんですが、首を交互に揺らしたり、のぞき込むような目線の演技があってぶりっ子強いなあと思いました。かわいらしかったです。

 

主人公も例えば、真緒を問い詰めるときにも

 

映画の浩介「まだ俺の知らない真緒がいるでしょ?」

 

小説の浩介「隠してることあるなら今のうちだぞ。」

 

こんな感じでキャラクターの描かれ方が微妙に違いました。映画では恋愛チックなところを強調したいという意図が節々のシーンから読み取れました。

 

 

3、エンディングの強引さ

 

小説では、最後に朝食をテーブルを囲んでいるときに、朝刊を取りにいくといって真緒がそのまま消失します。あまりにも突然であっけないエンディング。

 

一方で映画では、何やら猫の神様のようなものと社(やしろ)のようなものに真緒がたびたび駆け込み「もう時間がないんじゃ」「猫の寿命は短い」とたびたび警告されます。

 

そして真緒は最後にそこに逃げ込んで消失します。

 

この違いはとても大きいのではないでしょうか?

 

小説では猫の「九生」(9回の人生を生きる)という言い伝えや、死の間際に飼い主の前から姿を消す、という猫の習性についても言及されます。輪廻転生のような仏教的思想さえ背景に感じます。

 

そして、エンディングで真緒の正体が明らかになったとき、「猫の限りある9回の人生のうち1回をすべて愛する人のために捧げた」という美しさが際立ちます。

 

一方で、映画ではそのような深い背景には言及しておらず、タイムリミットがあること、正体が猫であったことだけが視聴者にわかりやすいように描かれており、個人的には不満が残りました。

 

 

 

4、曲の挿入は美しく完璧

 

 

これまで少し映画をディスってしまっていますが、映画の曲の挿入は完璧でした。これは映画でないとできないクオリティでした。

 

 

小説だと聴覚に訴える描写はどうしても伝わりにくい難しさがあります。

 

真緒が作中でたびたび口ずさむビーチボーイズの「素敵じゃないか(Would'nt it be nice?)」はとても重要な伏線になっています。

 

が、小説だと「フンフフンフフンフンフンフフーンフン」とか言われても全然伝わってきませんよね。わかりませんよね。

 

それをちゃんと真緒が口ずさむ様子が何度も入って、消失後にその音楽が流れるというのは、伏線の回収としてとっても美しかったです。

 

視覚聴覚にダイレクトに訴えられる映画の強みが存分に出ていました。

 

 

まとめ

 

陽だまりの彼女』の小説と映画の違いについて、僕が感じたのは以上のような点になります。


真面目ぶって批評したのでなんだか小恥ずかしいですが、人として大切なこと、生きていることのすばらしさがきらめく小説です。本当にいい小説です。

 

エンディングについては賛否があるかもしれませんが、こういうものを描くために物語はあるのだと思います。

 

ぜひとも小説と映画を見比べて、作品の良さをまた反芻してみるといいかもしれません。

 

 

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