こんにちは。
朝日新聞には、社説やオピニオン以外には、読んでいてためになる寄稿も多くあります。それを今回は紹介していきます。
池上彰さんは「『朝日新聞』の論調は、好き嫌いがはっきり分かれますが、国会議員や官僚といったパワーエリートが好んで読み、その影響下にあるのは紛れもない事実」と「僕らが毎日やっている最強の読み方」と指摘しています。
朝日は左だからダメだと決めつけず、これから紹介する大学教授や記者さんの寄稿を読んでみてほしい。
とても面白くてためになります。
本書71ページより引用
- 1 池上彰「新聞ななめ読み」
- 2 神里達博「月刊安心新聞」
- 3 ポール・クルーグマンのニューヨークタイムズへの寄稿
- 4 高橋純子「多事奏論」
- 5 ヒャダイン「ヒャダ兄さんがノリノリで相談にノリますよ?」
- おわりに
1 池上彰「新聞ななめ読み」
2007年4月から連載を開始し、2010年3月までは毎週月曜の夕刊で週1回、同年4月からは毎月最終金曜日の朝刊で月1回掲載されている[1][2]。
あるひとつの事件に対する記事を取り上げ、時系列的に追ったり、朝日新聞をはじめとする全国紙各紙の記事を対比したりして、論評する連載である[3]。
コラムの概要をWikipediaより引用
まずはじめに紹介するのは先ほどにも言及した池上彰さんの寄稿「新聞ななめ読み」です。全国紙を幅広くカバーしてウォッチしている池上さんが、独自の視点で各紙を比べたり、時事評論をするコーナーです。
このコーナーは朝日新聞だけでなく、全国紙、主要紙について幅広く言及しているので、自分の政治スタンスや意見を客観的に見て相対化することができるのがとてもいいです。
説明が足りない記事や、読者に不親切だと池上さんが思ったものは、バンバンたとえ朝日新聞であっても容赦なく斬っていきます。けっこう辛口なので、週刊こどもニュースに出ている温和で物知りなおじさんのイメージを持たれている方が読むと、ちょっとびっくりするかもしれません。
朝日新聞だけを読んでいると見失ってしまいがちな、意見を相対化する視点がこのコーナーでは備わります。
2 神里達博「月刊安心新聞」
続いては、神里達博さんの「月刊安心新聞」です。
先ほどの池上彰さんの「新聞ななめ読み」の強みが、朝日新聞と他紙を相対化できるところであるとすれば、こちらの「月刊安心新聞」の強みは「文系と理系」を横断する視野が持つことができるところにあります。
著者の神里さんの専門は「科学史、科学技術社会論、リスク論」とありますが、経歴が少し独特です。東大工学部を卒業したあとに、東大大学院の総合文化研究科というところで博士課程を取っています。神里さんが実際に論説文で書いているように、
こうして、高校生くらいまでの私は、電子工作、コンピューター、数学や化学が好きな、典型的な理系少年であった。将来の夢は当然、科学者かエンジニアになることだ。しかし同時に私は、科学技術の持つ、ほの暗い側面にも関心を持っていた。その理由は色々あると思うが、私の幼少期が、日本中で公害が大問題となっていた時代と重なっていることは、大きいだろう。小学校の図書館にも公害問題の本が並んでいて、その時代の子供たちはごく普通に読んでいた。
引用元
社会は科学や技術とどうつきあうか - 神里達博|論座 - 朝日新聞社の言論サイト
根っからの理系でありながら、科学技術によって人間の営みがどう変わるのかという倫理的な側面にも着目しています。
例えば最近の新型コロナウイルスについてであれば、
まず「コロナウイルスが科学的に見て、どんなウイルスで何が脅威で、今後どういう推移が予想されるのか」という理系的な解説を述べたあとに、
「コロナウイルスによって私たちの生活はどのように変わるのか、価値観はどう変容するだろうか、私たちは何を考えなければいけないのか」という文系的な考察を加えます。
この文系と理系を横断する広い知見が、読んでいて本当にためになります。理系的な解説中心の記事は面白みやリアリティに欠けますが、文系的な考察中心の記事だと科学的な根拠が薄くなるので説得力に欠けます。
神里さん自身は「どの分野にも精通していなくて、中途半端な自分が言うのは気が引けるが」みたいな但し書きを頻繁に入れて論説をします。その「自分は全く理解しきれているわけではない」という姿勢が学問に誠実に向き合っている感じがして、なおさら説得力を増しています。
その文系理系両方の視点から物事を見る視点が、とても参考になるのでぜひ読んでみてください。
自分の小ささを感じて、学問を修めたくなる、そういう論説です。
3 ポール・クルーグマンのニューヨークタイムズへの寄稿
ポール・クルーグマンはアメリカの経済学者で、プリンストン大学の教授です。2018年にはノーベル経済学賞を受賞している偉大な経済学者です。
ポール・クルーグマンはニューヨークタイムズにコラムを寄稿しており、それの日本語訳が朝日新聞のオピニオン欄に掲載されています。
ノーベル経済学者なので、書いていることが理路整然としていて説得力があるのはもちろんですが、それよりも魅力的なのはそのコミカルな文体です。経済学者とは思えない流れるようなポップな文章。
例えば、ドナルド・トランプの大統領選挙当選を受けた2016年11月の寄稿では、こんなことを書いています。
理知的に正直に考えれば、だれもが不愉快な現実を直視しなければならない。つまり、トランプ政権は米国と世界に多大な損害を与えることになる。もちろん、私が間違っている可能性もある。トランプ氏は大統領になったらひょっとして、私たちがこれまで見てきた男とは見違えるのかもしれない。およそあり得ないとは思うが。
トランプ氏勝利で恐れおののく米国人へ クルーグマン氏:朝日新聞デジタル
「トランプの当選はとてもやっかいだ」と一言で言えてしまうことだけでも、これだけ面白おかしく皮肉たっぷりで書けるのはもはや文才です。経済学を修めているだけでなく、人に文章を読ませるコラムニストとしての才能もあるのですから本当にうらやましい。
かたくるしくなく、笑いながら読める経済学者の寄稿です。ぜひ。
4 高橋純子「多事奏論」
「新聞社の『社説』や『コラム欄』を読めば、その新聞の本音がわかる」というのは池上彰さんも、「僕らが毎日やっている最強の読み方」で言っています。
高橋純子さんのこのコラムは、まさに朝日新聞の本音のように見える論説文です。
安倍政権の政策に対して疑問を呈し、不祥事を厳しく指摘します。コラムの中では、かなり語気が強めで、新聞社の事実を並べるだけの記事とはだいぶ違ったザ・コラムというような文章です。
個人的には自分の思うところと違うものはありますが、これだけの信念と情熱がこめられて自分は文章が書けるのだろうか、と。自分もこれだけの熱量をもって、文章が書けるようになりたいなと、そう思わされます。
首相や政権側からすると、こういったコラムを書く記者さんとか本当にやっかいな存在になっているんだろうな、と思います。朝日新聞らしさが前回になって出ているコラムですのでぜひ読んでみてください。
5 ヒャダイン「ヒャダ兄さんがノリノリで相談にノリますよ?」
堅いものが多くなったので、最後は朝日新聞ではなく、朝日中高生新聞のコーナーから1つ紹介します。ヒャダインさんが中高生からのお便りに対して回答する質問コーナー。中高生版「人生相談」です。
ちょっとおちゃらけたフラットな文章なのに、質問には核心をついてきます。人生相談とかって、なんだか上から目線のものが多いですよね。「君はこうすれば人生うまくいくでしょう」みたいな。ヒャダインさんにはそういう重苦しいものがありません。
「悩んでいるかもしれないけどそれって○○じゃないかな?大丈夫!」という感じ。軽く読めるけれども、回答は深くて染みるものがあります。ぜひ。
https://www.asagaku.com/chugaku/shimen/img/pdf/hyada2015.pdf
こちらのヒャダインさんへのインタビューなど面白いです。
おわりに
他にもまだまだ面白い評論や論説文はあります。津田大介さんのインターネット論考、オピニオンで賛成反対意見を比較する企画「耕論」、鷲田清一さんの「折々のことば」などなど、紹介したいものはまだあります。
また朝日新聞に対しても疑う視点を忘れてはいけません。例えば、はじめに紹介した池上彰さんの寄稿の2014年ごろの連載中止騒動などです。ですが、朝日新聞はとても読みやすく、読者に親切な文章がたくさん読めます。僕は応援しています。その一貫した政権への厳しい目線を見習いつつも、大手の新聞社が言っているから正しいと信じ込まず、常に複数の情報源をもって物事を考えていきたいですね。
朝日新聞をあまり読まない人は、まずこの5つの寄稿がとても面白く読みやすいので、おすすめします。
途中で紹介した池上彰さんの「僕らが毎日やっている最強の読み方」は要約記事も書いています。興味があればぜひ読んでみてください。
ありがとうございました。